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利尻山 
2003年04月27日〜29日   田中(章)
山行形態:利尻北峰アタック(単独)

27日

 稚内からこの日最終14:10のフェリーに乗り1時間30分で利尻島の鴛泊港に着く。天候は良好。北海道小樽までのフェリーと稚内までのバスの長旅で少し疲れて1時間眠った。
 暫くしてデッキに出ると眼前に利尻島がそびえその感動に一変に目が覚めた。その光景は忘れることができない。海上から一気に天に聳える利尻山。美しい裾野。三合目辺りから上が白一色であったせいか、海上から天空に浮かんでいるようだった。その急峻な最後のピークへの稜線は人を寄せ付けない威圧感があった。写真で見る利尻とは全く別の山に見えるくらい迫力があり、日本にこんな凄い山があったのかと思った。
 しかし、天候は明日以降下り坂に向かうとの予報だったため、鴛泊に着くと、水を補給しすぐにタクシーで登山口(標高150m)へむかった。本当は海から歩くつもりだったが今日の内に森林限界まで行くことを考え急いだ。
 登山口(北麓キャンプ場)を16:30に出発。10分ほどで名水寒露泉水に着く。一杯だけ水を飲み、すぐにまた誰もいない静かな登山道を歩き出した。利尻山は北海道の中で唯一ヒグマがいない山なので単独でも安心である。野鳥以外本当に動物の気配がない山だ。登山道はすぐに雪道に変わりエゾマツ、トドマツなどの針葉樹の森をぬけやがて、見通しの利く雪原に出た(標高400m)。2パーティーがそこでテントを張っていたが、もう少し高度をかせいでおこうと思いさらに歩いた。
 ここでは尾根上の夏道を通らず谷を稜線までつめていくのが冬は一般的なようで、今日までの好天のせいかトレースがしっかり付いていた。森林限界に近い標高550m付近にきた時、天気は晴れていたが突然強い風が吹き出した。ちょうどテントを張れるのもこの辺りが限界と判断し、谷間であったが万が一の雪崩を避けられる場所にテントを設営。第一日目の行動を終えた。(18:00)
 雪を溶かし、五目飯と明日の行動食の赤飯を温めた。そして、寒露水でラーメンを作った。鴛泊で買った缶ビールを飲みながら、空腹を満たすとすぐに眠くなり、21:00前にはシュラフにくるまった。ラジオをつけたがロシア放送ばかりで天気予報だけ確認し眠った。予報は明日昼から天気が崩れるとのことだった。

28日
 
 夜中、強風でテントを縛った木の枝がきしみ何度か目が覚めたが、それほど寒くはなくぐっすり休めた。
 朝は4:00に起床。テルモスの紅茶を満たんにして、梅粥を温めて食べた。星はよく見えていたが、相変わらず強い風が吹いていた。天候を考えてテントは撤収し、持っていくことにした。5:50出発。
 ちょうど同じ時間に3人のパーティーがスキーで登ってきた。話を聞くと利尻は何度目かで今年はこれでも雪が少ないらしかった。尾根に近い這松に沿って登った。そして、標高900m近くで夏道と合流し、長官山へ続く稜線の手前で少し休憩した。(分岐7:30着)
 分岐から10分ほどで稜線(見晴らし台)に出たが、北西の風がさらに強くなり身動きが取れず一旦少し下り、風を避けるため這松帯にアイゼンで1mほど雪洞を掘った。
 スコップを持ってくるべきだったが幸い雪がやわらかく十分な穴が掘れたので、しばらくそこで待機することにした。これ以上天候は悪くなるのか、それとも一旦回復するのか読めなかった。3人のスキー登山者は危険と判断し、僕の前を下山して行った。しかし、諦めきれなかった。たとえ天候が回復しなくても避難小屋までは行けるはずだと思った。
 昨日までの好天とトレースがあることで避難小屋には入れると判断。小屋までは標高差200m程。稜線に出て長官山を越えればあとは小屋まで迷うこともない。問題は風だけだった。そして、雪洞を出た。(9:50)その時、自分と同じ単独で一人登ってきた。
 稜線にでると風は北西からやや南西に変わり、ホワイトアウトし、まったく視界も利かなかった。稜線は平らで両端ともガスで見えなかった。風に飛ばされて滑落しないよう耐風姿勢をとったが一向に風が止まないので、膝をついて雪面を這って進んだ。手がかじかんできたが、その場にとまっていることが怖かった。
 やがて長官山のピーク1218mに着く。(10:50)地図を確認し、避難小屋までは少し下りで、コースタイムは10分ほどの距離のはずだったがなかなか小屋が見えず焦ってきた。トレース上を歩いていたので小屋を通り過ぎることはないだろうと思ったが、強風でかなり体力も消耗していた。天候はみぞれ状の吹雪に変わっていた。その時、ガスの中から避難小屋が現れ、たどり着くことができた。(11:40)
 稜線で会った単独の小笠原さんもすぐ後に同じような状況でたどり着き、無事を喜び合った。小屋の半分は埋まっていたが入り口は掘り起こされており入ることができた。服も靴もびしょ濡れだったが安堵感でそのまましばらく呆然としていた。少しすると体が冷えてきたので2階にテントを設営。風が小屋の屋根を叩きつける音が気になった。 早く寝たかったが、ザックカバーも飛んでしまい、シュラフまで濡れているのに気づく。ガス缶は残り1本半だった。
 16:00の天気図はラジオの感度が悪く低気圧と前線の位置だけ確認できたが、間違いなく明日は雨か雪だと思った。濡れていたシュラフもようやく乾き、ジフィーズを食べ、お茶を飲むとすぐに寝た。(18:00)

29日

 この日も何度か目覚めただけでぐっすり眠れた。起床は3:30。ふと風がやんでいることに気が付いた。外に出て見ると、眼下に鴛泊と沓形の町の夜景がくっきり見えていた。そして、これなら頂上を目指せると判断した。
 行動食を食べ紅茶だけテルモス満タンにして空身で出発。(4:40)
昨日の天候が嘘のように風がやみ静かだった。昨晩の強風で雪面はガチガチに固まっていた。高度が上がるにつれて、急斜面に変わってきた。アイゼンを利かせ一歩ずつ慎重に進んだ。滑落の死亡事故の多い理由が9合目より上の頂上直下にあることが良く分かった。傾斜角は45度近い。そして、利尻岳北峰1719mに登頂。(5:55)正面にローソク岩がジャンダルムそっくりに聳え、その左に三角形の南峰があった。北に礼文島。東に宗谷岬が見えていた。
 すばらしい光景だった。曇っていたが風はなく静かな頂上だった。雪の状態から南峰へも行けそうだったが、北峰までの計画だったこと、天候の急変を考え早めに下山することにした。南峰から見えるであろう南稜、仙法志稜の岩稜は見えなかった。避難小屋へ7:30着。テントを片付け、8:00出発。北麓キャンプ場へ11:00に無事下山。下山中、長官山を過ぎた辺りから空は雪に変わった。
                                   以上。
 <感 想>
 本当に厳しい山行であった。振り返るとあの天候の中、雪洞を後に稜線を目指した判断は間違っていたかも知れない。しかし、どうしてもピークへの気持ちが強かった。今回の利尻山行の中で、最初にフェリーから見た利尻山の光景が一番印象深かった。
 そのままの好天に恵まれていたら最高であったろうが、2日目以降の荒天のおかげか登頂の喜びをかみ締めることができたし、最初に見た利尻が余計に際立って自分の脳裏から離れない。万全の準備で臨んだつもりであったが、少し甘く考えていたことを反省しなければならない。
 無事に下山できた今は、屋久島宮之浦岳以来の印象深い山行になったことが嬉しい。利尻山の参考資料を提供してくれた岡島さんに感謝したい。


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