中央アルプス 滑川 奥三の沢 沢登り

山行日
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山域、ルート
中央アルプス 滑川 奥三の沢
活動内容
沢登り
メンバー
三瓶 修

中央アルプス 滑川 奥三の沢 沢登り 山行記録

7/18

大阪-ちくま-木曽福島

7/19

晴れ-ガス

木曽福島-タクシー-アルプス山荘(5:05)-敬人小屋-上松Aコース-滑川一の 沢付近-奥三の沢出合  (8:30)-赤茶けたチムニーの涸れ滝上 C1 (11:30)

ちくまは木曽福島に2:40くらいに到着する。まともに眠ってしまったら起きられるかどうか微妙な時間だし、寝なかったらしんどいし、と言うことで、寝たのか寝ないのかよく分からないままに、木曽福島に到着した。今回は海の日の3連休という訳で満員の状況で、立っている人も大勢いる。そんな中をそんな時間に降りるのはそれだけでもなかなか大変である。

木曽福島の駅はなかなかこざっぱりとしたきれいな駅で、時間も早いのでここでしばらく仮眠を取ることにする。1時間半程、うつらうつらしたか。辺りもすっかり明るくなったのでそろそろ出掛けることにする。

久しぶりの単独でしかも奥三ということで、心地のいい緊張感である。タクシーでアルプス山荘まで入る。ここからは上松Aコースをしばらく辿り、途中から滑川に降りる踏み跡を拾う。ところが敬人小屋の手前から大きな林道が入っていた。滑川第5砂防ダムの工事のための林道であった。どこから続いているのか分からないがこれが使えれば、滑川の支流群もますます入りやすい沢になって行くだろう。さてこの林道であるが、ここからどこまで続いているのか分からないので、当初の予定通り夏道から踏み跡を辿って滑川に降りることにする。

登山体系の記述のとおり小屋から5分ほども歩くと、右側にばつ印のついた踏み後が合わさっている。どうやらこれらしく思えたので、行ってみることにする。踏み後はおおよそ概念図どおり途中小さな沢を渡って滑川へと向かっているが、途中からはっきりしなくなってくる。笹Bushの中をテープをたどりながら進むが、テープも拾うことができなくなって、仕方がないのでそのまま真っすぐ沢に向かって進む。すさまじい沢の音はまだはるか下のほうに聞こえている。と思ったら、ひょっこりと先の林道に出てしまった。これならわざわざ登ってBushの中をうろうろせずに真っすぐ林道を歩けばよかった。林道は一の沢付近まで延びており、さらに延長のための踏み後などを拾って行くと、二の沢出合付近までスニーカーで歩くことができた。これで最初のロスタイムをだいぶ挽回できた感じがする。

沢はここのところ降り続いた雨の影響がまだ残っているのか、かなりの水量で、もしこの林道工事が行われていなかったら、下部の徒渉だけで相当苦しめられる結果になったであろう。

ようやく沢に入り、地下足袋をつける。天気は上々で、真っすぐ東へと延びる滑川の上には、梅雨明けの朝の強い日差しが降り注いでいる。かすかに望める稜線は逆光になって空にシルエットを浮かべている。単調な河原歩きではあるが、水量が多いせいかなかなか鬱陶しい。右へ左へと徒渉を繰り返しながら進んでいくと、スケールの大きさが感じられて気持ちがいい。もし奥三の沢まで林道が延びてしまって、この河原歩きをすることがなくなってしまったとしたら、遡行価値は半分とは言わないまでも、三分の二くらいにはなってしまうような気がする。

三の沢は顕著な二股で、下から見上げると上の二股まで沢が見渡せている。ここも逆光になっている感じではっきりとは見通せないが、ちょうど二股のところに大きな白い塊が見える。まさか雪渓かと思いながらもあまり追及せずに先に進む。 右手から比較的小さな沢が2本滝になってかかっている。これらの滝も外にあればなかなか堂々としたものではあるが、奥三の沢はこれらをはるかにしのぐ水量とスケールをもって滑川に降り注いでいた。まさに空から降ってくるという感じの唐突な出合である。「日本百名谷」の写真で見るよりはるかに水量は多い感じである。近づいてみると、水が異常に冷たい。上を見上げると白いガスが漂っている。間違いなく雪渓が残っている。ただでさえなかなか難しいのに、この水の冷たさと、雪渓の匂いには先が思いやられる。奥三の沢は北面になるので日差しはほとんど期待できない。一旦日の当たる場所まで戻りハーネスをつけ、ガチャの確認をする。5月以来の緊張感に気合が入る。

二条にかかる滝の間の凹にルートを取ることになる。下のほうは適当にがばがばっと登っていけるが、降り注ぐシャワーはなかなか強烈である。核心の部分は濡れていなければ4級位の岩登りだが、まともに当たるシャワーと不安定な浮き石のためになかなか難しそうである。ハーケンが1本だけ入っている。この滝は直登できなかった場合でも左右どちらからでも巻けそうである。ただしかなり大きな巻きになる。とりあえず no seil で取り付いてみる。残置ハーケンに長めのセルフを取って、シャワーを浴びながら登ってみる。下から見上げるよりかぶっている感じで、ハーケンに乗って上を除く。ここからの出口が思い切れない。と、右手でそっと持っていた50cm四方くらいの浮き石が少し動いた。あわててそっと降りる。

seilなしではちょっと難しい。体も既に冷えきっていて思うように動かない。一旦体勢を立て直すべく下まで戻る。ザックを下において、空身でseilをぶら下げて再びトライする。しかし、先程の浮き石が今度はもうぐらぐらになっており、手が出ない。他に動きを探したがすぐにはいい動きが思い浮かばず、そうこうしているうちに、体は再び冷えきってしまった。悔しいがここばかりに時間をかける訳にもいかないので、巻くことにする。右岸は比較的しっかりしたBushが生えており安定して巻けそうに見える。左岸は滝の部分から延びたスラブ状の岩盤が、高さ5m分くらい延びておりその上をはがれやすそうな草付きが覆っておりなかなかしんどそうだが、全く手が出ない訳でも無さそうだ。このうえのF2は左岸を巻くので、もし降りられなくても2つまとめて巻いてしまうつもりで左岸に取り付くことにする。

倒木を幾つも越え草付きを攀り、問題のスラブに出る。案の定草付きを押さえ込むようにしてホールドとスタンスを求めるが、いずれもなかなか渋い。横着せずにseilを出した方がよかったか。何とか無事通過するが冷や汗ものである。行けるか行けないか微妙な所の感覚は何とか健在のようである。何とかほっとしたと思う間もなくF2が豪快な姿を見せる。降りるのも面倒なのでそのまま巻きに入る。どこからでも最初は取り付けるのだが、滝の大きさをよく考えてルートを取らないと、途中に出てしまったり巻き過ぎたりしてしまう。結局、降りられるルートは1つしかないのだが、さすがに奥三に入ろうという人達は適当にどこでも登ってしまうために、はっきりとした巻き道にはならないらしい。

今回は一端は途中で沢により過ぎてしまい、滝のど真ん中で降りることもできず引き返し、再び巻いて大きく巻き過ぎ、Bushにしがみついてのいやらしい下降をさせられてしまった。沢に戻ると予想どおり雪渓が残っていたが、ここは問題なく通過することができた。何とか出だしの核心を終了し、沢に戻ってたばこを吸う。この調子だと緊張を維持するためには何本のたばこが必要になるか。間違っても濡らさないようにしなければと思いながら、残りの本数を確認する。

相変わらず水量が多く滝一杯に勢いよく水が流れており、まともに水を被りながらのシャワークライムで突破する。下手に巻こうとするとシビアなバランスに追い詰められたりするので、追い立てられるように水の中へ突っ込んで行くしかないのである。ここいらにある“小滝"は簡単に通過できなければ先が思いやられる訳だが、落ちたら元も子もないので慎重に登る。沢全体が滝でできているというべきであり、河原と呼べる部分は皆無である。

ひたすら攀り続けると、二股となってまず目に入ってくるのは“水量の少ない"雌滝である。左に視線を移すと、豪快に雄滝が降り注いでいる。中間の草付きのスラブをじわっと登る。すぐに雄滝の落ち口にトラバースしたかったのだが、そう簡単には移動できず、雌滝がわに1度大きく回り込んで再び下り気味にトラバースして滝のうえに降り立った。ここも、微妙な所に、もう一体何人の人がつかんだであろうという「お助け木の根っこ」があり、僕も大いに助けられた。

再びたばこを1本ふかす。両岸がたった中に冷たい空気がよどんでいる。上部視界がない。一旦右におれた沢が再び左を向き、さらに右におれる辺りに、長さ20m位の雪渓が現れた。左右は立っており大きく巻くのは無理である。乗っても良かったが、降り口に崩壊したセラック状の塊が3つ4つ転がっており、この通過がややこしそうである。たいぶ雨が降った後なので緊張するが、短いのでくぐることにする。久しぶりの雪渓の中は、氷の冷たさ以上に冷たく感じる。今このトンネルが崩れれば、しばらくは発見されないだろう。

どの滝をどうのぼったか分からなくなったころに、上の二股についた。本流の2段60mの滝も下から見上げると何とかなりそうな気もするが、ここはルート図どおり、左の沢から巻くことにする。一人で、しかもno seilでひたすら攀り続けるとだんだん感覚がマヒしてくる。これが結構こわい。冬でもそうだが行けば行くほど感覚がおかしくなり、最初はseilを出していたようなところでも平気で取り付いてしまいそうになる。これが1日や2日の山行ならばたいしたことはないがこれが、1週間にもなるとこの気づかない“ずれ"が、決定的になったりするのである。

60mの滝上に降り、ルート図を確認するが、ここらで水が涸れるはずも、いまだ沢幅一杯に水が流れている。かなり水量が多いらしい。この調子では三の沢左又の下降は苦しそうである。本来なら涸れ滝であるはずの、“赤茶けた20mの滝"を越えるとようやく水がなくなった。あらためて時計を見ると、まだ11:30である。自分でも気づかないうちに相当無理な行動をしたらしい。追い立てられるように滝を登り、3時間で核心を終了していた。

ここから上は稜線まで水が得られそうもないので、早いがここで泊まりとする。緊張の糸も今日の分は使い切ってしまった感じだ。滝の落ち口から1mほど離れたテラスを畳み縦半畳分だけ整地し今夜の宿とする。すぐ下にある雪渓から冷気が上がって来てやたらと寒いが仕方がない。びしゃびしゃに濡れた体を少しでも乾かそうと、小さなたき火を起こす。体が冷えきっているので、小さな炎でも暖かい。しばらく火にあたっていたが、やがてまきもなくなったので後は、着干しにする。ツエルトの中に潜り込んでラジオをつける。シュラフカバーに潜り込むが、体は全く暖まらない。仕方がないので、ガスを炊いて暖を取り、早々に飯を食って眠った。明日は夏道を下ることにする。

7/20

晴れ C1(4:40)-三の沢岳(5:20)-上松Aコース-JR上松駅(12:00)

昨夜は寒さのためほとんど眠れず、軽く風邪を引いたようでからだが少し重い。今日は無理をせず夏道を下ることにする。忠実に沢筋を詰めると、やがて崩壊した感じのザレ場となり、わずかにハイマツをこぐと三の沢岳のピークに突き出た。直登沢の魅力である。三の沢岳まではあっと言う間についたが、宝剣の稜線には蟻のように人が連なっている。いずれも南下してくるので、これをかわしながら進むのはなかなか大変である。だいぶ時間を取られてしまった。後は夏道をたらたらと下る。昨日の疲れが身体の節々に残っておりペースが上がらないが、ただただ下るだけである。途中、三の沢岳を振り返ると、昨日登った沢がすべて見渡せた。ここから見ると、まさにすべて滝でできているという感じで、堂々とした姿をさらしている。昨日くぐった雪渓も良く見える。さらに下って行くと、下りに取る予定にしていた三の沢の左又も見えて来た。ここは下から見上げたときにははっきりしなかったが、上の二股には大きな雪渓が3つくらいに固まりになってかぶさっていた。下らなくて良かったというところである。

久しぶりの単独の沢登りで緊張したが奥三の沢は名谷の名にふさわしいすばらしい沢であった。ぜひまた足のそろったPartyでやってみたい。奥三に入ってしまってからはいい天場はないので、出合で泊まって一気に上まで抜けてしまった方がいいだろう。標高差1000m近くあり、緊張も抜けないのでそれなりのPartyを組む必要はある。できれば雪渓のないもう少しだけ水量の少ない時に行った方がひたすら続く明るい滝登りを満喫できるだろう。