国土地理院の地形図の活用 前穂奥又白を題材にして

秋に行きたいと考えている前穂4峰正面壁について地形図を基にコースを説明します。また、読図について私のつたない経験を記したいと思います。

無雪期のポピュラーな登山道を歩くのであればエアリアマップ等の登山地図が便利ですが、道のない雪山や沢登りをするのであれば地形図を読む力が必要です。

以前、国土地理院の地形図は大きな書店や山道具屋にしか置いていませんでしたが、今は国土地理院のHPで日本中の地形図を調べたり購入することができます(図1)。HPの入口を開けると日本列島の図が現れ、目的の場所にフォーカスを集中して拡大しても良いし、虫眼鏡の印のある上の帯のところに地名を入力すればその場所にワープします。例えば「穂高岳」と行きたい山名を入力すれば地形図が現れます。(図2

国土地理院のHP 国土地理院 地形図 地図 読図 読み方 見方 登山
図1 国土地理院のHP
穂高岳の地形図 前穂高岳 北尾根 奥又白池 奥又白谷 A沢 B沢 C沢 吊尾根
図2 穂高岳の地形図

この地形図の等高線から沢と尾根の凸凹を立体的に認識できることが読図の基本です。多分、大工さんが図面を見てこれから建てる家をイメージする感覚に近いと思います。これが出来るようになるためには、自分が計画している山の地形図を何度も見て、日本登山体系などの概念図や写真と見比べてルートを研究することが必要です。ネットの他人のブログやトポを調べるだけでは読図は身に着きません。そして山で実際の地形と地図を見くらべて納得することです。

「穂高岳」の2万5千図には「吊尾根」「北尾根」と丁寧に書いてあるので北尾根は直に判りますが、どれが4峰でどこが正面壁か判るでしょうか。C沢を上がってインゼルを越えてDフェースや北壁に行く計画したときに、どれがC沢か地形図で示すことができますか。

実際の山中では天気が悪いとゆっくり地図を読めない場合もあるので、あらかじめ地図に沢型と尾根型、そして4峰・5峰・6峰などのピーク、沢の二股など、顕著な目印になる地形を色鉛筆などでマークしておきます。また高度計付きの時計を持っている人も多いので、コース上の等高線の高さが直ぐに判るように赤線でなぞっておきます。例えば、1500m、2000m、2500mの等高線を赤ペンで引いておきます。また分岐点やピークにも標高を記入しておきます。私の地図には、奥又白とパノラマ新道の分岐点に「1880」、奥明神沢のコルに「2850」、A沢の下降点に「3000」、涸沢岳西尾根の蒲田富士の西方で白出沢の出会いに向けた下降点には「2600」と記入しています。以前に道を間違えたところや間違えやすい地点です。地図上の標高を即座に読み取るのは難しく、私も老眼のため細かい等高線を数えるのがしんどくなり、最近では地図を拡大コピーして裸眼でも読める大きな数字で標高点を鉛筆書きしています。

図2に奥又白・北尾根周辺のポイントとなるピーク、コル、沢を記入したのでこれを参考に自分の地図で読図の練習をしてください。日本登山体系に載っている概念図と、前穂東面の積雪期の白黒写真と照らし合わせると理解しやすいと思います。

次に地理院のHPの面白いところは平面の地形図を3Dで立体的に見る機能です。図2の地図の右上にある「機能」を押すと3D画面となります。操作がややこしいのですがあらゆる方向から鳥瞰できるので、地形図を立体的に認識するための練習に役立つと思います。

図2の地形図を3Dに変換して前穂東面から眺めたのが図3の立体図です。等高線の縞模様しか現れないので美しい景色ではありませんが、地形の凸凹や傾斜がよく判ります。山に行った気分も味わえます。

図3の立体地図を基に、奥又白池から4峰正面壁を登って北尾根をたどって前穂頂上、そしてA沢を下って奥又白池に帰るコースを点線で示しました。

前穂東面の3D 前穂高岳 北尾根 奥又白池 奥又白沢 A沢 B沢 C沢 4峰正面壁
図3 前穂東面の3D

奥又白池は標高2480mです。南方の「茶臼の頭」が2535mなのでそこから標高を数えます。4峰正面へのアプローチは2通りあります。昨日登ってきた中畠新道を戻ってC沢の雪渓を登って行くのが判りやすいですが、上り返しが少なく時間の速いトラバースコースを行きましょう。

奥又白池から西方に尾根上の踏み跡をたどり傾斜が急になるところ(約2620m)に遭難碑のケルンがあります。そこからA沢側に降ります。そのままC沢目指してガレガレの斜面をトラバースします。冬は雪崩の巣なので踏み跡はありません。崩壊しているので落石を落としやすいです。下方の道からアプローチしているパーティーがいれば特に気をつけなければいけません。

雪渓を渡りC沢の巨大なチョックストーンの手前で右手の草付き斜面を登って行きます。なんとなく踏み跡があります。正面壁の北条・新村ルートの下部はガリーになっているので、「ガリー」の意味を知っていれば取付き点は判るでしょう。1ピッチ目は50mロープ一杯伸ばします。途中にも確保支点がありますが途中でピッチを切ると核心手前のハイマツテラスまで3ピッチになるので時間をロスします。下部のピッチグレードはⅢマイナスで、堡塁岩の下降路をもう少し急にした感じの優しいところですが浮石に気を付けてください。中間支点もほとんどありません。

ハイマツテラス上部の核心の3ピッチ目と4ピッチ目は高度感を楽しんで下さい。雪彦の地蔵正面や友人登路よりも露出感があります。5ピッチ目でハイマツ帯に入ると登攀は終了です。北条・新村は人気ルートなので混んでいるときは松高ルートに変更した方が良いでしょう。北尾根の3峰も渋滞していることが多いので涸沢側のRCCルートをう回路に考えておいた方が良いです。A沢の下降は一度行けば覚えていることでしょう。17時までに奥又白池に帰着したいと思います。残業は嫌です。

このように地形図と概念図と更に写真を見くらべて、ルートを研究することも山登りの楽しみです。

奥又白谷概念図
奥又白谷概念図 日本登山体系「槍ヶ岳 穂高岳」より
奥又白谷 A沢 B沢 C沢 正面壁
奥又白谷 日本登山体系「槍ヶ岳 穂高岳」より

2018年3月18日 岡島