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大台ケ原 本沢川水系 槙ノ平谷 遡行

2009年8月14日-15日     橘(単独)

せっかく計画的に盆休みが二日も取れたので有効利用するためにも沢登りに出発する。(計画的な休みがたった二日とは情けない)二日で行ける手ごろなコースを色々考え、京都北山藪こぎ縦走は暑そうなので、より涼しげな大台の槙ノ平谷を詰めて稜線に上がり、少し縦走して戻ってくることにする。

14日 朝8時家を出発。盆休みと合って国道309号線から吉野までは大渋滞だ。13時、やっとのことで入之波温泉に到達し、林道を上がって筏場の駐車場に着く。1台車が止まっており、どこかの大学の研究者らしい人が2名、昨日から徹夜で虫を採集していたとの事。世の中には色々な物好き(失礼)な方がいらっしゃるものだと感心する。

さて弁当を食べ終え、身支度をし、釜の公谷へと続く筏場道を奥へ詰めていく。靴は先週IBSで買ったばかりの物をいきなり履いているので足元がふらつく。 途中、崖道が崩壊しているところで早速滑りそうになりあわてて滑落停止する。(んな大袈裟な・・) 

黒倉又谷の出合付近で妙なアベックに出会う。何をしているのかと聞くと釣りの帰りだそうだ。怪しげな手提げかばんには色々入っているらしい。ご苦労なこった。豪快な滝壺のあたりを凝視してみると魚がいた。

釜の公の出合の釣り橋を渡ると一気に寂しくなってきた。ここから大台ケ原へ登る登山道は通行止めとの立て看板がある。帰りは大丈夫かなと案じながら沢へと下りていく。槙ノ平谷がどんな谷なのか文献もないしネットにも情報がない。ひょっとして初入渓だったらどうしようなどと余計な心配をしながらなおかつ今夜のねぐらも探しながら沢を詰める。詰めるにしたがって沢はどんどん暗くなっていく。安心して寝れそうな高台もない。これはどうするべと悩んでいるとエアリアマップの25000分の1地図には載っていない大滝が現れる。早速釣り糸を垂らすが反応なし。

さあ、この滝を越えていかねばならない。気は焦るが巻き道が見つからない。時刻ももうすぐ4時なので今日の所は快適な場所まで沢を戻ることにする。 途中まで戻った高台でツエルトをはり焚き火の準備をする。それにしても一人の沢は寂しい。だがそれを求めて沢に来ている。矛盾した思考を巡らしながら酒を飲み焚き火を弄りながら夜更けを待つ。7時、夜更けと共に眠りに着く。

ここは乾燥している上、杉の落ち葉を敷いているので家の布団よりも快適だ。(家でも寝袋だが) 2年前の弥山川側のビバークでは夜中に素裸で寝ていると背中と首に変な噛み付き虫にかまれ皮膚からつまみ出すのに難儀した。そのうえしばらくするとツエルトの回りに四つ足が現れ、ウロウロされて迷惑したものだ。それに比べるとビジネスホテル並だ。

15日 朝4時、夜明けと共に起床、出発の準備をする。今日の行動予定は複雑だが滝が越せなければ周辺で大人の川遊び(一人で)越せればそのときに考えることにする。こういうときに退却用のザイルは心強い。もしザイルが無ければ進退窮まる。大人の川遊びをしながら昨日の大滝まで着いた。今日は時間も早いので通過の方法を探る。まず左岸の傾斜がやや緩いので巻き上がってみる。5mほど登るがなんとなくいやらしい。上の方がどんな状態かも分からないしほとんど立ち木がないのがつらい。顔を引きつらせてクライムダウンし今度はもっと手前から巻こうとするがこれもやらしそうだ。うーんこれは無理だ。

あきらめて釣りでもしようと滝へ行った瞬間、右岸の絶壁から1本の茶けたロープがたれているのを発見。解を発見し竿をしまってロープをたよりに上がっていく。傾斜はきついがスタンスと安定した木があるので強引に登れる。往々にしてロープの末端は折れかけの木に蝶々結びしてあったりするがこれはハーケンとアングルで固められた立派な支点だった。滝の落ち口を慎重に越すと視界が開け、明るい沢になってきた。上部に来ると魚影が消え、替わりにかえるが増えてきた。

しばらくして二股が現れ、より早く稜線に上がれそうな左の槙ノ平谷へと進む。すぐに又大きな滝が現れた。ここは直登出来そうなのでアドレナリンを出しながらシャワークライムする。その後はやや凡庸な谷となり、途中猿の軍団と対決したりしながら楽しく詰めていく。枝沢が分かれるたびにコンパスで位置確認しないとどんな「ー」が出てくるかとひやひやする。幸い読図が良かったのかさしたる困難も無く若干の落石を出しながら引き水サコ辺りの稜線に飛び出す。

稜線着13時。さあ昼飯をくって大休止しようとするとやってきたのはスズメバチだった。1匹は我慢していたが応援にもう1匹やってきたのには耐え切れずザックを片付け場所を移動する。ここからは約4時間の登山道歩きなのでたいした不安はない。景色のよい御座ーを過ぎ、添谷山を乗越し、やや複雑な尾根を赤テープに助けられながら大台辻へと下りる。やっとここで大休止できるとザックと腰を下ろして行動食を食べかけると下りる方向になにやら立て看板とロープが。早速読んでみると「ここから釜の公出合までの筏場道は落橋の為通行できません」と読める。

ハヒー。この道が使えなければ付近の沢を決死の懸垂下降で下りるか最悪大台ケ原まで出てヒッチハイクで車まで戻るしかない。どちらも嫌だ。食べかけの行動食に未練を残しながらのんびりしていられないのでとりあえず筏場道を偵察がてら下りる。早速橋が崩落している。しかし頼りない細ロープが張られ、踏み跡も付いているので通過できると判断しそのまま下りていく。

右側の枝谷に取り付けられた橋は全て崩落しているか崩落しかけていて大変緊張する。まるでリポビタンDのCMそのものの状況で、テレビを見ながら家人に「あんな落ち掛けの橋は日本にないで」とうそぶいていた自分が恥ずかしい。CMでは二人でまだ手と手を取り合って助け合えたが今は一人なのでどうしようもない。念仏を唱えながらいつ落ちるか分からない橋を渡って下りる。悪いことに左は釜の公の深い谷なので余計に緊張する。

しかもハイカーが張ったと思われる細いロープは気休めにはなるが細い木に変な結び方をしてあるので信用が出来ない。やっとのことで釜の公出合まであと100mという所まで下りたが目の前の鉄橋が崩落していて通過できない。踏み跡を辿って大きく谷側に迂回し、また登り返して鉄橋の落ち口に戻る。橋の有り難さを痛感する。

全体的にこの釜の公から大台辻までの登山道は廃道化しかけている。このままでは沢登りの下山路にしか使う人がなく、整備しないと危険だ。しかし逆に考えるとこのまま原始の元の状態へ戻した方が良いのかもしれない。本沢川周辺に入り込み、鉄やコンクリートで自然な状態を壊していったのは人間の方だ。下り道でもあれこれと矛盾する悩みを抱えながらの山行となった。



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