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源次郎尾根
2003年5月13日〜17日  (2003.05.13-17)     記)滝口

5/13
 急行北国で、富山へ向かう。時刻11:23. 夜行で山に行く時は妙に高揚してしまう。これから行く山への期待と不安が混ざりながら、しかしビールがとても美味い!そんな雰囲気をいうも感じてしまう。森と話し込んでしまい、車掌から「他のお客様に迷惑がかかりますから」と注意を受けたので、眠ることにする。

5/14
 朝からいい天気だ。室堂には、修学旅行できている高校生やらハイヒールをはいた姉ちゃんたちでごった返している。大きなザックを担いでいるのは自分たちだけだ。あと、スキーヤーの姿もちらほら見られらた。彼らは室堂付近を滑るのだろう。
 しかし結構いい大人がこんな平日によく来ているなーと思いつつ剣沢に向けて歩き出した。そう思う僕は社会人になってはしまったが、気持ちはまだまだ学生の自由な心でいる甘ちゃんだな。
 室堂から剣沢までやっつけ仕事かと思ったがなかなかしんどい。何せ室堂に始めて入った僕はあまり概念を認識していなかった。別山乗越まではかなりしんどい思いをさせられてしまった。息ははぁはぁきれるし、とにかく太陽の照り返しが熱い!
 こちらから見る剱岳は初めてだったがピラミッドの頂点に向かって突き上げる岩尾根の美しさには心惹かれた。その上雪のついた剱のなんと美しいことか!これから登ると思うと心は本当に踊ってしまう。さて剣沢につくと雪が解けて島みたいになった陸地があった。その小さな無人島に我々はテントを張りのんびり体を休め始めた。
 昨日の仕事帰りに乗った夜行に寝不足がたたり、、また久し振りの山の中にいるという心地よさも手伝ってついマットを引いて寝てしまった。それはとても気持ちの良い眠りだったが、外で寝てしまったためものの一時間で焼けに焼けてしまいMSRを使うときでさえ、その熱気に顔をゆがめる始末だ。とりあえず合うのアタックに備えそうそうに眠りにつく。天気図はあまり良くない。

5/15
 朝から雨で視界も聞かないので早々に停滞を決める。雪渓はガスで包まれ別世界にいるような気持ちだ。どうせやることもないという事でとにかく眠った。こんなに何も気にせずねっむたのはいつぶりだろうか?働き始めて眠るのが勿体ないと思うようになったが、やはりぐっすり眠るのは気持ちいい。
 8時ごろに起きて、あまりにも暇なので別山尾根を少し登ることにする。一服剣、前剣と登るもガスで何も見えない。雨の中アイゼンで登るのもいいが、やはり晴れるか雪が降るかのほうが気持ちの高揚も違う。この日はテントに帰ると、天気図用紙のあまりを使い、将棋を作って遊ぶ。久し振りに将棋をさしたがやはりこのゲーム、闘争本能を呼びおこされ気持ちが高ぶる。
 天気図を撮ると前線が北上してきており、天気予報でも明日は70%で雨とのこと。また停滞かとげんなりしてくる。果たして我々は剣の頂上を踏めるのだろうかと。

5/16
 朝起きた時はまだ雨だったが、とりあえず準備をして、ラジオの天気予報をまつ。5:00 ラジオは昨日とは打って変わり今日は日本海にできた高気圧の影響で晴れるといっているではないか!まじか!と思いすぐに出発の準備をする。
 テントを出たのが5:30 出発も遅くなったしとりあえず今日は別山尾根を行こうと決め出発する。ところが剣沢を横断中見える剣に、そして源次郎尾根にとても惹かれていき、いまを逃すと、明日も雨かもしれないし、剣の天気は読みにくいという気持ちも手伝って急遽剣沢を下降することにした。下降するという事は源次郎をやるということに他ならない。
 速攻で下りていき平蔵谷の出合まで来ると急にもよおしてきた!不安になったのか知れないが、とりあえずキジを撃ち源次郎末端の尾根に取り付く。6:30。ルンゼは急になっていくし雪崩の危険も考えるとやはり尾根がいいだろうということで尾根筋を取ったのだが、最初は草付きで結構やらしい。その上夏道に合流したらフリー(三級程度)岩に出くわした。
 クレッターだったら楽勝でもアイゼンだとやはり緊張する。上にあがりロープをフィックスして森を引き上げる。その後はひたすら夏道を忠実にたどり、右手にルンゼを見ながら登りあげる。ルンゼと尾根が合流する地点まで北がいまいち凸状岩壁というのが分からない。悪い草月を登り上へ上へと目指す。この頃になって僕はあせってきた。このルートは5〜8時間で登りきれると言われている。しかも自分と森は体力もそこそこあるし、時間がかかっても6時間も有ればピークは踏めると楽観視していた。
 しかし時すでに9時近い上に、いまいち自分の正確な位置が掴みきれていない。このまま時間切れになったらかなわんなと思い始め、しかし降りようにももういままでの急な斜面を下りるのも危なくてとにかく悩んだ。そこに出てきたのがグスグスの雪の壁?だ。たった10m位なのだが気温も上がりアイゼンは効かないし雪はぼろぼろ落ちてしまう。これで登っている時足元がくずれたらまず間違いなく死ぬわと思い少々ひるんでしまう。
 しかし行くしかないし、ピッケルで足場を作りながら登ると以外に崩れなかった。それを登りきるとT峰が目の前に飛び込んできた。そこで初めて安堵感がうまれこれは成功するという自身も取り戻せた。今回一番緊張したところだったと思う。雪のしまってないのほどたちの悪いものはないなーと思いながらひたすらT峰目指して前進する。
 ここまできたら、後は文献どうりに忠実に辿ればいい。そのままT峰を踏みU峰へ向かおうと心ははやる。時間はおしているのだから。だが、U峰へ行くには、T峰から少し下らなければならないのだが、雪は太陽の熱でぐすぐすに解けている上に少々急だ。ザイルを取り出して50mいっぱいまで懸垂して下りる。そこから、U峰への登りは全く快適な岩登りだった。アイゼンでもルンルンで登れU方のピークへ付いたのは11:00近くだったと思う。ここから、30mの剣素で、コルへ降り後は本峰への道をひたすら登るだけだ。
 ここで、今日の剣は我々の独壇場と思っていたのが裏切られる。長次郎谷から上がってきたパーティがコルを経由して本峰へ向かっているではないか! この時はくそっと舌打ちをしたものだが、あとからこのパーティには感謝することになった。
 さて、U峰からの懸垂だが、支点は鎖を含めいいのがごろごろとある。念のため持ってきた捨て縄をバックアップにして懸垂を開始する。30mの懸垂で中間支点はないということで、わざわざ50m二本のザイルを持ってきたのに、下降中中間支点はこれでもかと言う具合に、ちょうど真ん中へんにセットされていた。なんや、あるんだったら、はじめから中間支点はないなんて書くなよと、一人ぶつくさ言いながら下降を終える。
 この時、11;30. 後は本峰へ向かってこの簡単な雪稜を行くだけだ。しかしこの頃から、僕の体力は思っている以上に消耗していたらしく、森とついさっき話していたことがひどくかなり前に喋っていたことのように感じられてくるようになった。しかもその会話の内容も僕が森に話し掛けたはずの事柄でさえ、すぐさっきのことを忘れているのだ。覚えていることは、さっき何かを森に喋りかけたっけ?という疑問詞のついたまま。また、少し歩いては少し休むという非情にゆっくりとした登り方をし始めた上に、少し休むつもりが自分でも気づかないうちに、息を整えるのに長いこと立ったままの姿勢でいるのだ。
 「やばい、熱射病になりかかっとるんじゃろうか?」と、思い始め途中の岩の露出しているところでひとまず休憩することにした。確かにここかた本峰まで難しいのぼりではないけれど、もし滑ってしまえば平蔵谷側へさよならだ。はじめは先行者に追いついてやろうと躍起になっていたが、もはやそれどころではない。
 その上、先行者のステップの後がなければ、体力の消耗した自分たちには本峰までの道のりはまださらに遠いものになっていただろう。やっとのことで本峰へたったのは1:00前になっていた。五月の剣を踏めたこと、そのパートナーが大学時代からの山仲間だと思うと感極まるものがあった。ああ、やった! ついに! 雪のある剣をやったぞと。
 確かに冬の剣に比べたら、五月の剣は比べようもないくらい易しいが、自分たちの力で五月と言えども剣を踏んだ意義は、我々にとってはこれからの山行にとっても、大きな自信になったと思う。しばらく頂上での余韻に浸った後、下降を開始する。カニのタテバイをおり平蔵谷の上部に来た時に、別山尾根をたどるか、平蔵谷をおりるかで意見がわかれた。
 計画上は平蔵谷を降りるということにしていたが、今から下降してまた剣沢を登り返すのはとてもしんどいし、実際雪もぐすぐすの沢を下るのは僕にとっては、無性に気持ちの悪いものだった。(雪崩の危険はなかったと思うが) 
 それなら尾根を辿り帰るほうが安全じゃないかと。しかし夏に別山尾根を登ったことのある森は、尾根のほうが危険だと主張する。結局、自分が少し尾根を偵察に行き行けそうなら、尾根を帰ることで合意する。実際、尾根上の雪は消え夏道は出ているので、谷を降りるよりは安全だったと思う。まぁ、結果論だけど。その上、昨日前剣までは来ているのでそこまで行けば、テントまではやっつけ仕事だとも思っていた。
 しかし、疲労甚だしい我々の体力では、昨日と同じようには行かず、結局前剣からサイト場まで帰るのにえらい時間を要した。テントに着いたのは、六時前だったと思う。この日は疲労もピークに達し早々と二人とも眠りに落ちた。

5/17
 満足感に浸り、室道方面へと帰る。途中みくりが池温泉で一風呂浴びた。山の後の温泉はなんて気持ちいいんだろう。そしてビールのなんとうまいことか!今回は自分たちの体力への過信を思い知らされた山行となった。これからは、山でばてないくらいの体力をまたつけなおしたいものだ。そして五月の剣を踏めたこともこれからの山行への一つのステップとなるだろう。得るものの大きい山行だった。また、このような山行ができたらいいなと思う。最後に僕の体力不足を、肉体的にも精神的にもカバーしてくれたパートナーに感謝したい。


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