正月雪山大作戦 北岳~塩見岳 厳冬期縦走

2002年12月29日~2003年01月01日  須川 雄司(記)

メンバー 須川 田中 滝口 森

12月28日

JR京都駅に10時に集合した。「近鉄交通バス」から京都駅~甲府駅までの夜行バスが出ている。JR京都駅11時出発で6時半にJR甲府駅に着く。値段は7500円である。バスの中は座席が3列のゆったりサイズで毛布 スリッパ トイレ 冷たい飲み物が用意されている。正月前の帰省ラッシュで込みこみの電車で行くよりかなり快適だ。

12月29日

ぐっすり眠れて起きたらもう甲府駅に着いていた。外は結構寒いが雪は積もっていない。 天気は良く遠くに見える白峰三山がかっこいい。甲府駅からタクシーで夜叉神峠登山地まで向かう。(9000円) 夜叉人峠登山口には思ったより大勢の人がいるが、みんな鳳凰三山に登るのだろうかトンネルに向かう人は見かけない。

夜叉神トンネルの中は電気が燈っていて暖かいが天井から氷柱が垂れ下がり今にも落ちそうで怖い。鷲ノ住山のあたりから薄っすら雪が着いている。ここの下りはかなり急なので念の為アイゼンを出して下降する。一気に下りると無人の発電所がブーンブーンと薄気味悪くうなっている。そこから細く不安定な吊橋を渡り奈良田へと通じる林道に出た。

あるき沢橋でやっと他のパーティーに出会う。ここから池山小屋まで一気に標高差700mの急登が始まる。今年はあるき沢橋の所から結構積雪があり例年よりも雪が多いらしい。しかし有難いことに天気も良くトレースが着いていたのでワカンも要らず快適に高度を稼げる。 池山御池小屋に着くとうっそうと茂った木の中にぽっかりと雪原が広がり木漏れ日が差し込んでいて幻想的だ。まだ時間が早いので森林眼界の少し下までいくことにするが、小屋まで来たことでホッとしてしまい急に体が重くだるかった。

城峰を少し越えたところで今日の幕営地とする。早速テントを張ろうとするがテントが古くボロい。穴だらけでポールを刺そうとすると突き破ってテントの中にポールが入ったり、布テープで補修しているところも外れそうだし、何よりポールの中のゴムが伸びきっていてなかなかはまらない。これではとても風の強い稜線では張れないなあと思い、行く前に装備点検をしとくべきだったと後悔する。

今回は軽量化を計る為、お酒をほとんど持って来ていないのでお茶を飲みながら暖をとるが少し淋しい。自分にもっと体力があったらなあと切実に思った。ここの雪はサラサラのパウダースノーで体は濡れないが、なかなか水にならない。ペミカンで作ったビーフシチューを食べる。ペミカンは燃料もゴミも少なくなるし味は最高に美味しい。欠点は用意が邪魔臭いところか。この日は、寒さのせいかみんななかなか寝つけなかった。

参考タイム

夜叉神峠(8:00) あるき沢橋(11:00) 池山御池小屋(13:00) 幕営地点(16:00)

12月30日

4時に起き田中さんが用意してくれた生メンのうどんを食べる。まだ暗いうちに出発するが、いきなりの急登で朝から嫌になる。昨日の夜は星が綺麗だったので今日も天気はいいだろう。ヒーヒー言いながら登っていると朝日が昇り始めて白峰三山をピンク色に染めていく。下界を見渡せば雲海が広がり、その中に富士山が浮いているようにそびえ立っている。今日も晴天、絶好の登山日和だ。美しい景色に心は洗われていくが体はしっかり昨日の疲れを残している。

ボーコン沢の頭あたりから森林も無くなり雪だけの世界になる。ここから間ノ岳、北岳、農鳥岳らの展望がカッコイイ。北岳バットレスもよく見え、夏に登った4尾根やDガリー奥壁もすっかり白く覆われて、また違った一面を見せてくれる。冬のバットレスは雪がベッタリと着いていて岩登りというよりも雪壁や雪稜の世界なのかなあと思った。 ボーコン沢の頭からは、たよやかな登りと書いてあったが結構しんどい。田中さんはニコンの一眼レフカメラを持って来ていて写真を取りまくっている。自分はポケットに入れた「写るんです」を取り出す元気も無くひたすら下を向いて歩く。

八本歯ノ頭からの下りは何の問題もなく降りられる。コルから先は急な登りになり少しだけ出ているハシゴをつかみながら登るが10歩も登るとすぐ足が止まってしまうぐらい辛い。 やっと北岳との分岐点に着きザックを下ろし空身でピークを目指す。今まで暖かかったのに稜線に出ると急に風が強くなり寒い。少しの距離だからと、薄い手袋しか履いていなかったので指先がジンジンしてくる。

ついに北岳のピークに登りつめた。田中さんはさっそく写真を撮っているが、自分は山頂を踏んだ喜びよりも寒さと疲れの気持ちの方が大きく記念写真だけをとり早々と下山する。 分岐点に戻り、また重いザックを背負って北岳山荘へと向かう。下の分岐点にデポしたため山荘までは斜面をトラバースしながら行くのだがトレースが雪で埋まっているところもあり少し緊張させられる。北岳山荘に着いた時点でかなり疲れも溜まっており、ここで泊まりたかったが、まだ11時半という時間で風を防げる所もあまり無いのでもう少し頑張ることにした。

ここから間ノ岳までの登りは本当に辛く長い道のりだった。疲労で頭の中が真っ白になり何でこんなにしんどくて寒くて危険なことをしに山に行くのか、と思うと涙が出そうになる。前を見ると森もバテている。「体力のある森でもしんどいんだから、みんなつらくてもがんばっているんだ」と思うと少し元気が出てきた。グランドのような広い間ノ岳のピークに立つ。何の感動も無いままこれから先のことを考える。今回のテントではここで幕営するのは寒すぎるだろうし、幸い無いと思っていたトレースが三峰岳方面に着いている。ここから熊野平まで夏道のコースタイムで2時間、今が1時30分。天気もいいことだし、気力を振り絞って熊の平まで行くことにする。

途中に何度かテントを張れそうな所が在ったが意地になって熊野平まで歩いた。熊野平小屋は冬季小屋もあるが先客がいた為に外にテントを張る。10時間歩きっぱなし 本当に疲れた1日だった。田中さんが学生時代から使っている年季の入った革の登山靴で来ていたので足の指が凍傷になってしまった。今日の夕食はペミカンの豚汁とジフィーズの牛飯やはり冬はペミカンがおいしい。

参考タイム

幕営地点(6:30) 北岳ピーク(10:30) 北岳山荘(11:30) 間ノ岳(13:30) 熊野平小屋(16:30)

12月31日

4時に起床。起きるとテントの内側が霜で真っ白になっている。昨日も寒くあまり寝むれなかった。やはり小屋の中に張るべきだったと後悔しながら朝食を作る(ラーメン)。 今日も天気は良さそうだ。昨日も一昨日も遅くまで行動していたので天気図をとっていない。 熊野平小屋からもトレースは続いているがフカフカ雪の為ワカンを着ける。

安倍荒倉岳~小岩峰~新蛇抜山~北荒川岳をどこが山頂かよく分からないまま、ひたすら塩見岳を目指して進む。あまりアップダウンも無く樹林帯の中を歩いたりと昨日とはまた一味違っておもしろい。 北俣岳の登り辺りから急な登りが続くようになる。上りになると一気に昨日まで疲れがドット出てきて気持ちも滅入ってしまう。 後を振り返ると昨日登った北岳や間ノ岳がはるか遠くに見え、「よくここまで歩いたなあ」と感心する。塩見岳への登からアイゼンに付け替え、大迫力の塩見岳バットレスを見ながら山頂を目指す。

塩見岳バットレスは影になっており暗く、北岳が陽ならこちらは陰という感じだ。塩見岳に続く稜線に出ると今までとは別世界の光景が広がった。青空に真っ白なナイフリッジがピークまでスパッと切り立っている。まるでヒマラヤのようでなんだかワクワクしてくる。 「心ウキウキー体ガタガター」とかってな歌を口ずさみながら塩見岳の東峰に到着。今回の目的であった塩見岳の登頂を果たし体の芯から感動した。

周りの景色を見渡しても山、山、山。南アルプスから遠くは槍ヶ岳や穂高までよく見える。「ああーやっぱり山は最高だなー」と今までの苦労もすっかり忘れ最高の気分だ。メインピークの西峰に着くと、ちょうど登山者が登って来て4人一緒に写真を撮ってもう。きっとこの写真は僕の一生の宝物になるだろう。 いつまでも居たい気持ちだったが、塩見岳からの下りも危険らしいので気を取り直し慎重に降り始める。田中さんの足の凍傷がひどくなりだし下りるのが痛そうだ。

塩見小屋に着きここにテントを張ろうとすると小屋のオヤジが出てきて、「ここは幕営禁止で、これから天気もくずれるからもう少し下った樹林帯で張ってくれ」とのこと。仕方なし森林限界のギリギリのところで幕営地点とした。 もうここまで来たら明日は天気が悪くても降りられるだろうと、2日分の食料を一気に食べた。(ビーフシチュースパゲッチ・ミートボール添え)

参考タイム

熊野平(4:30) 塩見岳(13:30) 幕営地点(13:30)

1月1日

今日は元旦 全く正月という感じがしない。今日は下山だけなので気が楽だ。朝食はきな粉餅とコーンスープ。きな粉餅は大きな餅が10個以上あった。最終日までこんな重たい物を担いでくれた田中さんどうもありがとう。それと僕が持ってきた食料を持ってくれた森、ずっとテントを背負っていた滝さん本当にすみません。今日からくずれると言っていた天気もけっこういいみたいだ。

三伏峠まですぐに着くと思っていたが、けっこう遠く3時間半もかかってしまう。ここらは夏道ではなく尾根上にルートをとらなくてはならず、視界が無い時は注意が必要だ。三伏峠からは滑るように下降し塩川に到着。塩川小屋からタクシーを呼ぼうとするが、電話が無かった。小屋のオヤジに4日間で北岳から塩見岳にいってきたと言うとビックリしていた。例年はココまで車が入るそうだが今年は雪が多いいので、樺沢までしか車が入らないらしい。

塩川から大鹿温泉まで9キロの道のりだが電話も通じず仕方なく歩くことにする。アスファルトにプラ靴は痛く、凍った路面に何度もコケながら温泉に着く。大鹿温泉は想像以上にキレイで大きい。ゆったりと浸かり全身を解凍した。温泉の女将さんにタクシーを呼んでもらい伊那大島まで行く。(6300円)去年まではバスもタクシーも元旦は休んでいたが登山者の要望が多いので今年からタクシーだけが営業し始めたらしい。

JR伊那大島駅から辰野~塩尻~松本と電車を乗り継ぐ(1450円)松本に着くとだんだん天気が悪くなってきて雪が降り始める。これからどんどん天気が悪くなるらしい。今回は山行前に大きなクリスマス寒波がやってきて下山するとまた天気が悪くなった。その間に山に入ることができ本当についている。 松本から大阪までの「ちくま」が深夜の1時9分発しかないので居酒屋に入り時間をつぶすが、疲れているせいか体が全然お酒をうけつけなかった。

しかし今回は天気にもトレースにも恵まれ体力的にはかなりしんどかったが計画書通りに行くことができ本当に充実した山行だった。 たぶん須川 田中さん 滝さん 森この内1人でも抜けると成功しなかっただろう。4人が1つになってそれぞれの役割をこなし、励ましあい、パーティー全員が自分のもっている力を全て出し、補いあったからこそ最高の登山ができたのだと思う。本当にありがとうございました。松本からガラガラにすいているちくまで大阪に帰る。(乗車券6090円・急行券1260円)

参考タイム

幕営地点(6:30) 三伏峠(10:00) 塩川(12:00)大鹿温泉(14:00) JR伊那大島駅(16:36発) 松本駅(1:09)大阪(7:30)