黒部丸山 東壁 緑ルート 厳冬期アルパインクライミング

山行日
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山域、ルート
黒部丸山 東壁 緑ルート
活動内容
厳冬期アルパインクライミング
メンバー
高橋 小林

黒部丸山 東壁 緑ルート 厳冬期アルパインクライミング 山行記録

25日

町ではまだクリスマスに酔っている中を僕達2人は町を離れて一路山に向かって車を走らせていた。中央高速ではトラックが横転しているらしく荷物のダンボール箱が散乱していて脇見渋滞で時間がかかってしまう。僕達も気を付けて運転をしなくてはと思う。夜明け前に日向山のゲートに着くと先客がいてもう出発の準備をしていた。僕達は少しの間仮眠することとして浅い眠りに入るが寒くてあまり眠れない。

26日

明るくなってから出発の準備をする。伸ちゃんと来るといつも重い荷物を持ってもらい感謝あるのみ。

道路には雪が少し積もっているが扇沢や黒部ダムの工事の為に除雪してある道をただたんに下を見ながらもくもくと歩き出す。車が通るたびに乗せて欲しいなと2人で言っているが止まってくれる車は一台もない。なんだかんだと言いながら扇沢に着く。トロリーバスだと20分位で着くトンネルも歩いていくとこれが大変長い。トンネルを抜けてからまっすぐに黒部川に向けて降りていく。帰りは大変だなと思う。観光放流もなく黒部の水は静かに流れているが僕達の心は熱く東壁に向かっていた。先人のトレースに助けられてラッセルもなく重い荷物に喘ぎながら黒部の河原を行く。途中までは夏道だが河原伝いに行くようになってからは夏道は使えない。右岸を行くようになる。最後内蔵助出合の所で左岸に渡るがここで少し靴を濡らす。今日は出合でテントを張ることにする。無雪期と違い出合の看板も雪の下である。整地をしテントを張る。あとはいつものようにアルコール三昧で一日は過ぎて行く。

27日

明るくなってからテントを出る。前日のトレースに助けられて歩を進める。ブッシュも雪の下で歩きやすく東壁の下まで楽である。ここから取り付き迄ラッセルである今冬僕達が一番である嬉しいやら楽しいやらの雰囲気である。ラッセルは苦しいが。

取り付きに着き準備をしてワカンをここにデポすることにする。1ピッチ目は僕がし、以後つるべで登る事にする。いきなりの雪落としである。下はスラブなのでアイゼンがうまくきかない。ベルグラをだましながら7メートル位登りやっとボルトにランナーを取り一安心。アブミに乗りながらひたすら雪を落とし次の支点を探すだけであるがうまく見つからないところがあり腹が立つ。時間ばかりが待つもまなくただ過ぎるだけでピッチは捗らない。テラスも雪で落とさなくてはいけないのでよけいに時間がかかる。

2ピッチ目では伸ちゃんが少し動くハーケンを引っ張ると抜けてしまいあらに新しいハーケンをうちたす。このピッチも雪落としであり悪戯に時間ばかりが過ぎていきやはり冬の黒部だと変に感心していた。4ピッチで時間も4時頃になっていたあと1ピッチでここを抜けるとホテル丸山に着くがこのピッチに1時間半位かかってしまう。途中で緩傾斜帯に入るから伸ちゃんにザイルを出してもらうように言ってから4,5メートル登るとはまってしまい又降りなくならないようになり最終支点がかなり下でまたザイルを手繰ってもらうが声がうまく届かないので大変緊張する。薄い氷にピッケルを刺しアブミをセットし抜けないでと言いながら伸ちゃんに落ちるかもわからへんでと叫んでいた。

今度は左の方に行くことにしたがこちらもかなり緊張する小指位のブッシュにタイオフしているがここで2度程アイゼンが滑りアドレナリンが吹き出している。安全圏まであと少しの所でザイルが足らなくなり不安定な雪壁でビレーをしているので伸ちゃんが安定したところでもう一度ザイルを延ばす。ここで暗くなってしまう。ホテルに着きホットする。熱いお茶を飲み少しすると伸ちゃんが小林さん今日の食料テントに忘れてきたという。えっ!ほんまに!でもコンロはあるしお茶や行動食もあるし、ええやんか。コンロがないよりましやんかと2人で納得する。ホテルの中はツララや氷柱がたくさんあり雪を溶かすよりかなり効率が良い唯、寝床が凍っているので寒いし冷たい。ホテル丸山はレストランは閉まっているが喫茶が開いていたので旨いお茶やスープでお腹を満たし馬鹿話をする。

28日

中央バンドを左に凹角迄行くバンドはかなり傾斜がきつくて降りてきたときの為に確保をしてもらいラッセルをする。ハング下でピンが抜けているらしくアングルを打ち足す。ここでピッチを切り伸ちゃんと交代する快調にザイルが延びたが最後の所で苦労しているらしく雪が多く落ちてくるバンド手前でヘルメットが岩に当たり4.5メートル落ちたという。僕の方にはテンションがなくなんだか解らなかった。声が聞こえずやきもきしたが怪我もないというので安心するボルトを打ちバンドに上がった所で僕が後続する。ここで終了とし懸垂下降を始める。1ピッチで中央バンドに着く。バンドを少し登り返して緑ルートを下降する。取り付きでワカンを回収し内蔵の助出合のテント場迄戻る今夜はここでもう一度泊まることにして明日帰ることにする。天気が良く恵まれた日であった。

29日

今日も天気が良く今夜から崩れるようだとラジオは言っていた僕達2人は恵まれた天気で楽しく過ごせたことに感謝しながら重い荷物を背にダムに向かうのであった。トンネルの中で富山県警の遭体無線を拾い大町の交番に届ける。長いトンネルを抜けると雪が降っているが心の中は熱く燃えている2人であった。